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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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師走のある老人
 買い物袋をいっぱい抱え、若い男女が表通りまで出て来た。トランクをあけてそれらを詰め込み、クルマに乗り込んだ。
 クルマのエンジンがかかった。ラジオからクリスマス曲が流れ出した。男はシートベルトをしめ、サイドミラーに目を走らせた。
「あとはケーキだけね」
「ケーキは途中のボンボジで買った方がいいだろう」
「それがいい。おかあさんもあそこ以外のケーキは食べないと言ってたし」
「じゃあそっち回りで帰ろう。いいね」
 クルマがバックして展開させようとした時、あっ、ちょっと待って、と彼女が叫ぶ。慌ててブレーキを踏む。
「どうした?」
「お財布もトランクに入れちゃった。後ろ開けてくれる?」
 ちらとバックミラーを見た。
「ケーキ買う金なら持ってるよ」
「でも、開けて」
 彼女はそう言って外に飛び出した。
「金なら持ってると言ってるのに」
 彼は舌打ちしながらトランクレバーを引いた。そして後方の様子をうかがった。
 すぐに彼女の大声がした。ドンドンとドアが叩かれた。クルマ戻して、エンジン切って、と必死に叫んでいる。
「早く、早くして」
「何だ、落ち着けよ。何をそんなに興奮してるんだ」
 彼は言われるままクルマのエンジンを切った。半ば呆れながらクルマの外に出て後方を見た瞬間彼の背中は凍りついた。後部タイヤの際から人の身体が横に伸びているではないか。
 轢いたのか、ととっさに思った。あわててクルマに乗り込み、クルマを前に戻した。真っ青になって外へ飛び出した。
 そこで横たわっていたのは白髪頭の老人である。グレーのロングコートと黒いズボン、足袋に草履履きといった何とも半端な格好である。
 こんな所にいつからこの人がいたんだ? 
 寝そべった老人の腹を挟んだ格好で彼は女と目を見合わせた。
「轢いた?」
「それはないみたい。だけどタイヤはこの人の顔にほとんどくっつくような状態だった。あと三十センチバックすれば乗り上げちゃってたわよ」
 彼女の言葉に彼は胸を撫で下ろした。寸でのところで事なきを得たらしい。
 しかし、老人の安全が確認できた途端、彼はムカムカした気分に襲われてきた。
 下手したら自分はこの人を轢いていたのである。
「だけどこの人何でここにいるの? 」
「私にも分からない。おじさん、大丈夫ですか?」
 彼女が呼びかけるように声をかけた。
 ついさっき、買い物袋を詰め込んだ場所である。その時、この老人の姿などなかったのである。
 老人は目を瞑ったままじっとして動かない。
 二人は交互に老人に呼びかけた。
 繁華街である。彼らを包んで何事かというように人垣が出来始めた。
 妙な疑いを受けてはたまらない。早くこの事態を打開しなければならない。
 軽い舌打ちとともに彼は老人の腕をつかみ、揺さぶった。
 老人は反応して目を剥いた。ギョロリと彼を見つめ返した。彼は苛立ちを制しながら優しい目で訊ねた。
「どうしたんですか?」
「どうした、だって?」
 老人はしばらく辺りに目をやっていたが、やおら身を起こした。きびきびした動作で立ち上がり、ズボンを叩いた。
「やっぱりダメだったか。上手く轢いてくれると思ったのにな」
 老人はしかめっ面になっている。ズボンのお尻を払うようにしながら彼を見つめ返した。
「わしはあんたのクルマに頭を轢かれて死にたかったんだよ」
 老人はそう言い残すと人垣を分けツカツカと歩き去った。
 二人はポカーンとした目で老人を見送った。
「年の暮れになると変な人間が出てくるね」
 そんな言葉を交わしながら人垣も散り出した。


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