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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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安物の首飾り
 
 Mは部下のA子と不倫していた。しかし、周囲で二人の関係を怪しむ声が聞かれるようになった。A子の態度にもなれなれしさとわがままが鼻につくようになっていた。
 休日のある日、クリーニングに出すスーツの話を妻としていたら、スーツのポケットに入りっぱなしだった携帯が鳴った。取り出して開いたらA子からのメールだった。
「誰からです?」
 妻に尋ねられ、Mはとっさに男の名をあげた。取引先の人間だ、と付け加えた。仕事の話、といえば妻は引き下がるところがあった。
 ひやりとさせられたMは携帯を握りしめてタバコを買いに出た。A子からのメールを削除して、そろそろこの関係も清算するべきだなと考えた。
 次の休みの日、MはA子をデートに誘った。
 評判の芳しくないレストランで食事をし、デパートなどを歩き回った。A子は最初にこにこしていたが、Mが何か買ってくれるわけでもなさそうと知って不機嫌になりだした。
「ねえ、何なのこれ?」
 歩き回るだけのことにA子は怒りの表情になった。
「気がつくとひと駅歩いてしまっているね」
「どうしたっていうの」
「今までの逆をちょっとやってみた」
「えっ?」
「君がこれまで私を連れまわしたことのさ」
 A子にそう言うと、Mは目の前のアクセサリーの店に入っていった。店は若者で溢れていた。そこで自分の好みだが安物の首飾りを買って彼女に与えた。
 あっけに取られた様子でA子はそれを受け取り、バッグにぽいと投げ入れた。

 翌日、A子は退勤するMを近くで待ち受けていた。Mの姿を見るとメールしていつものカフェルームに呼び出した。
「昨日のあれはどういうことなの」
「どういうことって・・・言っただろう。今までの逆をやってみたって。他意はないよ」
「あのレストランも?」
「このところ冠婚葬祭などで出費が嵩んでいたし、懐具合が寂しかったんだ。僕は家庭のある身だというのを忘れないでくれ」
「だけど、あの首かざりはないでしょう。たった三千円。三千円の安物よ」
「そうだな。贈り物と真心は鏡に映せ、ってね」 
 Mの言葉にA子は怪訝そうにした。
「無名作家の小説の中の一文だ。言い得て妙だと思わないか? 外国旅行でいつだったか君が買ってきてくれたネクタイ・・・あれはいくらだった?」
「・・・」
「真心が数字に置き換わるようになったら、男女の仲も終わりってことじゃないのか」

 二人は駅に歩いて電車に乗った。混んでいたが、次の駅で二人は席に座れた。車内はまた混んできて、老人が目の前に立った。
 MはA子に席を譲るよう促した。
 A子はいやそうな表情を向けてきたが、もう一度仕草で促した。老人に席を譲ったA子は怒りの視線をずっとMに向けていた。
 彼女の視線を避けてMは目を閉じた。電車は心地よく揺れ続けた。
 やがてMが目を開けた時、そこにA子の姿はなかった。
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