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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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噴水

 便器販売と設置業務の小さな会社を営んでいるAは無類ののん兵衛である。いろんな理由をつくって取引先の人間や友人らと飲み歩く。そんな彼がもっともくつろげるのは、幾人かの社員らと飲みに繰り出す時であった。
 翌日が休みのある日、Aは社員らを連れて街へ繰り出した。
 イルミネーションの飾られた歩道にどこからともなくジングルベルの音楽が流れてくる。
 今年は昨年の業績を挽回したこともあって彼は上機嫌だった。
「さあ、みんな、遠慮せずに飲め。酒は俺のおごりだ。いくらでも飲め。その代わり、食い物は別勘定だからな」
 社員らは互いに顔を見合わせ、笑いを噛み殺した。みなにごちそうを振舞う前の彼の冴えない決まり文句だからだった。
 遠縁としてここで働くBをAはかわいがっていた。一人娘を遠くへ嫁に出し、息子のいない彼はそのうちBに会社を任せてもいいとさえ考えていた。
 社員らを飲みに連れて出ても、大半の者は一次会で帰っていってしまう。酒がまわりだすと仕事一途で生きてきた彼の話は、次第にその話一色に染められてくる。しかも誰かをつかまえて説教を始めたりするので、それを嫌い、頃合を見て彼らは次々と退席していってしまうのだった。
 無理して付き合った者も、たいていが気分を悪くして最後は帰っていく有様になる。
「何だあいつらは。自腹切って飲み食いさせているのに付き合いが悪いな。仕方がない。気分直しにもう一軒いくか」
 店を出てふらつくAをBは肩を入れて支えた。
「社長、そろそろ酒も仕事の話もお開きにしませんか。もう、足にきてますよ」
「何のこれしき。この程度でくたばっていてはこの不況を乗り切れるものか。レッツ・ゴーッ!」
 そう言って彼はこぶしを上に振り上げる。
 Bはやむなく彼にしたがった。
「若さを気取るのもいいです。だけどあとで反動が来ても知りませんからね」
 次の店でもAはまた便器の話を始めた。
「いいか。便所だってこれからは利便性だけでなく快適性も追求していかなければいけない。そのためには思い切った斬新なアイデアも必要になってくる。見ていろよ。そのうち俺もみんなが驚くような便器を自分の手でつくってやるから・・・」
 ほかのテーブルから呆れたような視線が飛んでくる。前方だけでなく、背後からもそんな視線を感じながらBは耳を赤らめていた。
 さんざん言いたいことをしゃべってAは時計を見た。
「さて、お次へ行くか」
 席を立ってふらつくAを支えながらレジに向った。Aが出した財布から札を取り出してBが清算をすませた。
「飲むのはもう無理です。お開きにしましょう」
 説得を続けながら外へ連れて出ようとすると小便をすると彼は言いだす。
 ふらつく彼の腕をあわてて取った。
 こんなに酔っていては一人行かすわけにいかない。店員に場所を聞き、連れて行ってドアをあけ、彼をトイレへ送りいれた。
 Aは鼻歌をうたいながら中に入っていった。
 Bはほっと胸を撫で下ろす。彼の酔いも最終段階に入ったようだ。饒舌のあとは歌をうたいだし、楽しそうになっていくのがこの人のパターンなのだ。
「タクシーを拾うにはやっぱり駅前まで出なきゃいけないかな・・・それともそのへんで拾えるかな・・・」
 Bは彼が小用をすませて出てくるのを福々しい思いで待った。
 しかし、彼は一向に出てこない。何かぶつぶつ言い出しているのが聞こえる。Bはその声に耳を傾けた。
「いやー、まいった。これはすばらしい。鏡付きの小便器とは・・・快適性もここまで追求されてきたか・・・しかし、難点は・・・ここの位置が高すぎることだ。これじゃ小便をするのが・・・」
 Bは「あっ」と叫んでドアを開けた。中へ踏み込んだ。
 しかし、遅かった。手洗いに向けて勢いよく噴水が上がっていた。
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