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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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千円の指輪
 


 酒場の店員と振られた女の話をしていると、隣で話を聞いていた男が言った。
「さっきからあなたの話を聞いていたが、女は追いかけない方がいいと思うぜ」
 このままじゃ失礼と感じたか、男はかけていたサングラスをはずした。
 中年で肥満も進んでいてどう見ても女に持てるタイプではない。
 せっかちで女に逃げられてばかりの彼はこの男がどんな話をするかに興味を覚えた。
 彼の表情を見て男は話を続けた。
「女というのは眺めているだけならじっとしてそこを動かない。だが、接近を図るとゴキブリのようにあわてて逃げだす。そういう生き物だ。女はむやみに追いかけるものじゃないのさ」
 彼は鼻をふくらませた。だからどうするというのだ? こっちが聞きたいのはそんなことじゃない。
「では、どうやって女を口説く? 眺めているだけでは進展があるとも思えないが・・・!」
「失礼だが、あなたは金持ちかい?」
「金持ちなら苦労はしない。野暮なことは聞かないでくれ」
「そうでしょうな」男は首を縦に振った。「私と同じだ。それなら話もしやすい。女を口説くのに金の類はそれほど大した意味を持たない。価値を利用するただのツールに過ぎんのです」
 男は懐から金の指輪を取り出した。
「私はいつもこれを使っている」
 彼は思わず吹き出しそうになった。
 大上段の話を切り出した割にはありふれた手段を行使するらしい。
「どういう風に?」
「そばにいる時これを指にはめてチラつかす。チラつかして自分の世界をひたすらアピールする。これ、じつはメッキで、散りばめてあるのもダイヤモンドじゃなくてガラスだが、そんなことは問題じゃない。問題は女に対して本気だと思わせることだ」
 彼は口を開けた。
「反応がないけど何か疑問でも?」
「そんなものあげたって、偽モノだってすぐバレるんじゃないの?」
 男は指輪を自分の小指にはめた。
「あげるとはひとことも言ってない」
「・・・?」
「言っただろ。問題は女に対して本気だと思わせることだって。女はやたらな接近は嫌うが、自分を売り込み続ける男から離れていくことはない。むしろ次第に興味を惹かれるようになる」
「・・・」
 この男を理解しかねて 彼はボーイを見た。店員はただニヤニヤしている。男は話を続けた。
「小鳥のメスはオスが自分に向けてするダンスをじっと眺めているだろ? あれと同じだ」
「で、何をやればいいんだ?」
「まあ・・・人間は鳥ではないから、もちろん工夫がいる。これは千円も出せばおつりのくるシロモノだが、これが偽モノとバレた頃に行動を起こすわけだ。億万長者に五万円のネックレスを買ってもらっても女は大して喜ばないに違いない? むしろ、苛立ちを強くするだけだろう。しかし、千円もしない指輪をはめている男が三万円のネックレスを持って女にぶつかっていったらどうなると思う。試してみる価値はあると思わないか?」
 そう言い終ると男はトイレに立った。
 男がトイレに消えるのを見て彼は店員に訊ねた。
「あの人はここの常連さんかい?」
「はい。時々やって来られます」
「何やってる人?」
「手にしてた指輪などを売って回っているようです」
 彼は呆れた。笑いがこみ上げた。
「面白い人だ・・・!」
 男が戻ってくると手にしている指輪を売ってくれと切り出した。
 これは大事なものだから、と男は渋ったが、彼は千円を押し付けてその指輪を手にした。それから笑わしてもらったお礼に酒を一杯おごった。
 そして勘定をすませ、気分もよさそうに店を出て行った。
 店員は男に訊ねた。
「彼はあなたの言ったことを試してみると思いますか?」
「どうだろう・・・自分のかみさんつかまえたことが、また起こるだろうかという話だからね」
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