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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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トラックが一級街道を走っている。
 外は冷たい風が吹いていた。
 男は蝿が目障りでならなかった。会社を出た時からこの蝿はずっと視野の中にいて飛び回っている。
 目に入らない場所にじっとしてればいいものを顔のそばを旋回したり、額に止まろうとまでしてきた。
 そこまではまだよかった。手で振り払う程度ですんだ。
 だが、ふと気付くと飲みかけのコーヒー缶に止まり、飲み口のあたりをうろついているではないか。
 男は蝿に目を合わせた。ふいに女の顔が蘇った。

 ――蝿のようにまとわりついて困ってる・・・!

 昔、好きだった女は共通の知り合いにそう告げた。出来れば自分に直接ぶつけてほしかった言葉や感情だった。
 また思い出してしまった・・・しばらく後悔に苛まれそうで男は舌打ちした。
「こいつ!」
 蝿があの女の化身のように思えてきた。男は蝿を叩き落とそうとした。
 だが、蝿は男の襲撃を難なくかわした。
 おかげで反動がきた。ハンドルを持つ手が一瞬狂い、トラックは中央分離帯にあやうくぶつかりそうになったのだ、
 蝿に逃げられ、トラックの破損事故まで起こしそうになって男は頭に血を上らせた。
 運転席の窓をあけ、飲みかけのコーヒー缶を中央分離帯の草むらへ投げ捨てた。
 傍らのタオルを手にし、蝿を見つけてはそれで叩き落そうとした。しかしトラックを走らせながらの狙い撃ちはうまくいかない。蝿は男をあざ笑うように「さあ、またどうぞ」とばかり元の場所に戻ってきたりした。
 とはいえこいつとこの空間を共有するのは一時でも耐えられない。 
 男は窓をあけ外への誘導を試みた。だが、外の風はあまりに冷たい。顔がすぐ凍りつきそうになる。そんなところへこいつが飛び出していくわけもないことだった。
 両方の窓を全開にすればこいつは風の冷たさにしびれ、いずれ外へ飛び出すことになるかもしれない。だがその前にこっちがやられてしまう。
 あきらめて窓を閉める。
 しかしどうにも癪に障る。こいつを何とか追っ払う方法はないかと男は考えた。
 こういう時のため殺虫剤も用意するとしよう。だがそれよりまず自分をバカにしているこいつをやるのが先決だ・・・!
 いろいろ悩んでいるうちに蝿の姿は見えなくなっている。
 その後、蝿は姿を現さなくなり、ラジオの音楽がしっかり耳に入ってくるようになった。しかし、頭の片隅で蝿の存在は居座り続けている。
「おとなしくしたからってここから生きて出られると思うなよ」
 音楽のリズムに心地よくなりながらも男は無意識につぶやいた。

 前方にコンビニの看板が見え、喉に渇きと空腹を覚えた。
 今日は早めに昼めしとするか・・・男は車線を変更し、駐車場にトラックを乗り入れた。
 トラックから降りると男は早足でコンビニの出入り口に向かった。額にタオルを巻いた男がドアの取っ手を引いて入って行くのが見える。
 ドアは戻って閉まった。それを右手指先の甲で押して入ろうとした。別にすばやく手を動かした感覚はなかった。だが、指先の甲が樹脂のドアに触れた時、人差し指の甲に豆粒ほどの柔らかな感触が伝わってきた。瞬間、男は腕と手の力を抜いた。
 すると人差し指の甲から何かが滑り落ちていった。
 足元を見て男は妙な気分に陥った。人差し指から離れて落ちていったのは蝿だったからだ。
 自分はわけのわからないうちにこいつをやってしまったらしい。ドアにへばりついていたものの寒さで動けなくなってしまっていたのか。
 男はコンビニに入るとまずトイレをすませた。弁当と缶コーヒーを買い、思い出して殺虫剤も買い足した。
 駆け足でトラックに戻り、ドアを開けるとひどくあわてたように蝿が外へ飛び出していった。ドアのガラスにでもとまっていたのか。
 蝿はすぐ行方をくらましたが、こっちの意図を見抜いて逃げ出したようにも思え、何ともこっけいな気分が男の胸にこみ上げた。

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