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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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夜陰
English Version
한국어
          

 夜の深まりとともに街のネオンは光彩を強めだしている。
 街並みの夜陰を照らし出す明かりの秩序に沿って人々は動き回っていた。
 電車の行き交う音が辺りに響く
 レストランなどの連なる大きな街道端に一台の高級車がクルマの奔流から抜け出して停止した。
 シールドのかかったドアの窓が静かに開く。
「ここか?」
 でっぷりしたサングラスの男が最後の一服を吸ってタバコを灰皿に押しつぶした。
 もう一人の痩せた男は何か不快そうな鋭い目つきで外の賑やかなネオンを見上げた。
 目の前にはラーメン屋の看板が置かれている。
 痩せた男は少し首をかしげるようにした。
 右頬にヒクッと痙攣が走る。引き攣れたような左顎の火傷痕が走り交う車のライトに浮かび上がる。
 男たちの眼差しの注がれるガラス越しの店内では、若い男女が割烹着姿で忙しそうに動き回っていた。
「客は確かに入っている。しかしテーブルがひとつとカウンターだけのちっぽけな店ではないか。この店が辺りの客をみんな引っ張って繁盛してるってか?」
「・・・哲、分かってるな」
「オッス」
「岡部、事情はこいつがよく知っている。行ってナシをつけてこい」
 哲と呼ばれた小柄な男が景気よくドアを開けて外に飛び出す。
 岡部は後に続いて降りた。周囲を見回し、黒ジャンの襟を整えた。
 二人の男を残し高級車はゆっくり走り去った。
「この店をつぶせばビルが建って例の店がここに入ってこれるってわけか・・・?」
「バラックみたいな店が数軒並んでますが、流行ってるのはここだけです」
「・・・一度ドジったんだってな。そいつらはどうした?」
「サツにパクられておツトメです。別の一件まで穿り出されちまって・・・出て来るのはいつになるかわかりません」
「どうにもならねえ野郎たちだ。娑婆に戻っても大してハクはつかねえだろう。で、どうやってドジったんだ?」
「ゴキブリです」
「あん?」
「そいつをどんぶりに投げ込むのを客に見られちまったんです。それでドジ踏んだんです。取り押さえて、警察に突き出したのは店に来ていた学生だっていう話です」
「そうかい。そいつらもいい度胸してるな」
「まあ・・・居直って啖呵切ったまではよかったが、連中によってたかって取り押さえられた。赤っ恥もいいとこです」
「・・・」
「中身もないと度胸だけではどうにもならない時代っすよ。尻の青い無鉄砲なガキどもが威張りかえる時代ですから」
 岡部は舎弟分をにらみ付けた。
「てめえもそうだったんだろうが」
 派手シャツの哲は首をすくめた。
「確かにその通りです」
「組のいい兄いが、啖呵切ってやられるんじゃサマにならないわな」
「まったくです。サマも何もあったもんじゃない」
「大阪にでもいってお笑い芸人に弟子入りでもすればいいや。そしたらそのネタで三年は頑張れるだろう」
「そらあ、いいや。さすが兄貴。いうことが違う。はっはは、そのネタで三年か。岡部の兄いはやっぱり違う。何だっていつも筋金が通ってる」
 彼は手の甲で舎弟分の頬を張る。
「いちいち調子こくなてめえ! 少し黙ってろ。何が筋金だ。俺をなめてんのか」
「へい、すみません」
 彼はテカテカの髪にひと櫛入れ、ネオンを見上げる。ペッと唾を吐く。先の尖ったエナメル靴が不気味な光を返した。
「よろしいですか? 行きますぜ」
 派手シャツの哲は打診をすませ肩をいからせて先に立った。おりしも中から客が二人出てきた。
「待て」
 店に入って行こうとする哲を岡部は呼び止める。
「ちょっとこっちへ来い」
 二人は街路樹の下に寄った。店に背を向けた。肩をよせ、段取りを確認した。
「いいか、哲。お前、わざと俺の方にどんぶりのつゆをぶちまけろ。どんぶりを相手からじかに受けるフリをしてだ。相手に非があるようにするんだ。うまくやれ。そしてお前が言いがかりをつける。後は俺がやる」
「わかりやした」
「よし行け」
 岡部は金縁のファッションメガネを上着の内懐から取り出した。ハーッと息を吹きかけた。ハンカチで拭いた。メガネをかけなおし哲の後に続いた。
店は常に満員の状態だった。席があけばすぐにもそこは埋まるのだ。
「いらっしゃい」
 店内の待ち席に腰をおろしてまもなく二人の客が勘定を払って出て行った。岡部たちはそのあとに席を取った。
 飲食物と金のやりとりがせわしく続く。ようやく女がラーメンを運んできた。
メガネの曇りを拭いていた岡部は顔を上げる。
 目が合った瞬間、女の目が強張った。哲夫の前に出されようとしていたどんぶりがいきなり彼女の手を離れ落下した。床に叩きつけられ、どんぶりは激しい音を立てた。
 客たちの視線は女に釘付けになった。
「何やってんだ、てめえは。そこで一人相撲取ってんじゃないぜ」
 哲がからかいの言葉を投げた。
「すみません」
 女はカウンター内に身体を沈め、割れた食器と汚物を片付け始める。
「すみません。すぐ作り直しますから」
 店の主人がフライパンを動かしながら二人を見た。
「いいんだ。急いじゃいない。ゆっくり作り直してくんな」
 今度は店の主人と岡部の目が合った。その瞬間、二人の表情も固まった。

 岡部たちはおとなしくラーメンを食べて店を出た。会長のクルマが走り去った方角に歩き出した。
「ああなるとは思いもしませんでしたね。おかげですっかり作戦も気も殺がれちまった。どうしたもんですかね。次の手を考えるのは大事ですが、俺は思うんです。あそこに戻って居座り、来る客来る客にジッと眼垂れてるのはどうですかい?」 
 岡部は哲を無視して先を歩く。
「まったく・・・あの太っちょカカアのためにすっかり筋書きが狂っちまった」
 彼は足を止めた。哲をにらみつける。
「うるさいんだ! それにあいつをカカアなどと気安く呼ぶんじゃない」
「へい、すみません。・・・ていうと、あの女は兄貴のお知り合いですかい?」
「てめえ!」
 爪楊枝で哲の頬をついた。哲は痛さで悲鳴とともにのけぞった。
 岡部の目は血走っている。辛うじて足蹴りを思い留まり、顎をしゃくった。
「目障りだから先に事務所へ戻ってろ。とっつぁんには俺から連絡入れる」
「へい、分かりやした」
 兄貴分に突き放され、哲は仕方なくタクシーをつかまえて消えた。
 タクシーが遠ざかるのを見送ってから、岡部は黒ジャンの襟を直した。タクシーの走り去った方角に歩き出す。
 一分ほど歩いて立ち止まる。目の前に・三州ラーメン・と看板のかかった店がある。中に客の姿はなく、賑々しい看板だけがギトギト点滅している。
「あそこを潰したがっているのはここか・・・ひどく趣味の悪そうな店だ」
 彼は、ケッ、と足元に唾を吐いた。そこに五秒と留まらずすぐそばの横断歩道を渡り、今来た方向に戻りだした。

 駅前の喫茶室で時間をつぶし、岡部が哲と入ったラーメン店に再び顔を出したのは閉店の少し前だった。
 いらっしゃい、と景気のいい声を響かせた店主は、岡部と目を合わせるなりそのまま下を向いた。客はまだ二三残っていた。そばにいた女が店主の指示で表の明かりを消した。外に出て暖簾を外し、看板を片付けだした。
 岡部はカウンターの奥に進み、ゆっくり腰をおろした。その上の壁に設えられた台座でテレビが付けっぱなしになっている。
 コメディアンが奇声を発し、立ち膝でひょこひょこ動き回っている。彼はちらと画面を見やり、そばにあった新聞を手にした。ファッションメガネをはずし、黙ってその中に目を投じた。
 最後の客が勘定をすませて出ていってから、店の女は彼の前に淹れたてのお茶を出し、遠慮がちに口を開いた。
「いつこちらに?」
 岡部は顔を上げた。店主と目が合った。先に目線を外したのはカウンター内の彼の方だ。
 岡部は上着のポケットからショートホープを取り出した。テーブルで二三度先端を叩いて口にくわえた。火をつけ、思い切り吸った。
 煙を天井に吹き上げて答えた。
「ふた月前だ。二度目のツトメに出たってのは知っていたようだな」
 店主の視線は岡部の背後に伸びた。反対側の壁にはまった鏡にぶつかる。その奥から彼の表情が苦々しく浮かび上がった。
「こいつと二人で心配してたんだ。憲夫、どうしてるかなって・・・」
 ガスの火をとめ、たまった食器を洗い出しながら店主が言った。女は頷いて岡部を見た。
「てめえら、ほんとに俺を心配してくれてたのか? ちっとはそうして真っ当なことやりながらなあ・・・?」
 タバコを灰皿で揉みつぶし、岡部の目はギロッと光った。
 岡部の言葉に二人は力なくうな垂れた。

 岡部と平塚は同じ中学の同期だった。岡部は中学を出て地元のガソリンスタンドで働きだした。平塚は高校に進んだものの夏休みに族仲間と遊びが過ぎ、二学期に入ると学校に足が向かなくなった。結局中退した。
 中学を出る頃二人は札付きの不良になっていた。他の生徒たちから金を強請り、盗んだバイクを乗り回した。
 よその学校の連中とも喧嘩を繰り返した。特に平塚は喝上げや暴行で辺りに名を馳せた。二三の生徒は彼との接触を怖れ、よその学校に転校して行ったほどである。
 しかし、運がいいというべきか、数多くの強請りや暴行にかかわらず、彼らは二度ほど警察に補導されただけですんだ。強請りや暴行に遭った者のほとんどが泣き寝入りで口をつぐんだからである。
 平塚の父親が地元で少しは名が知れていたからだ。母親もPTAの活動に熱心で、それなり実績も築いていた。
 中学一年の終わり頃、岡部は病気休学を経て平塚と親しくなった。やがて彼の腰巾着として使いっぱしりをやるようになり、周囲の者たちはそんな彼をあざ笑うように眺めていた。休学の間に離れた友達はなぜか彼のところに戻ってこなかった。そのせいで気が弱くなった面もあっただろう。
 家庭はというと、父親はろくに仕事もせず競馬にはまっている。母親は働きに出て生活の賄いに追い立てられていた。その上彼は母親の連れ子で継父に好かれてもいなかった。
 勉強は出来ない方じゃなかったが、休学の後はさっぱりついていけなくなった。塾通いが出来るわけでもない彼が勉強に興味を失うのは早かった。
 家に帰っても酒を飲む父がいるだけで、母は仕事を掛け持ちで夜遅くまで働いている。
 岡部は両親から捨て置かれ、学校の同級生らからも無視された。気がついた時には平塚だけがそばにいた。素行の悪い生徒であっても彼だけが何かと岡部をかまってくれたのである。平塚が生徒らから巻き上げた金の幾らかは彼の懐にも入った。彼は平塚に深い友情を覚えた。彼のやろうとすることに善悪はなかった。悪いと分かっていても従うだけだった。晩飯も食えない時のある彼にとって小遣いに不自由しない毎日はただ有難かった。日々を重ねるうち彼と同じ世界に充足している自分がいた。

 女から出されたお茶には手もつけず、岡部は平塚を外に促した。平塚は割烹着と前掛けを外し、白い上っ張りを着て岡部の後に従った。
 二人は並んで駅の方角に歩いた。
「真佐子の身体ん中にゃガキがいるようだな」
「ああ。八か月なんだ」
 駐車場に入るクルマをやり過ごし、終夜営業のレストランに入った。窓際と反対側の奥テーブルに席を取る。高校生にしか見えないウエイトレスがやってきて注文を取っていった。
「三州のオーナーとは知らない間柄でもないだろうが」
 二人は目を見合わせた。平塚は小さく頷いた。
「憲夫が最初のあれ(ツトメ)に出ていた時、いろいろと世話になった人だ」
「ラーメン屋の見習い口もそのオヤジの世話によるっていうじゃないか。おかげでああして立派に店も出せるようになったってわけだ」
「いやそれは」
 今度は小首を傾げる。
「内容は逆に伝わってるかもしれない。あれは先方が人手を欲しいということだった。その話に誘われて・・・」
「そんなの俺が知るか。しかし、どうしてあの店なんだ。ラーメン店出すなら、よそにいくらでも物件あったんじゃないのか。何もあそこじゃなくてもよ。どうしてあそこなんだ。考えてもみろ。お前んとこに客足を取られ、さっきも見てきたがあの店は閑古鳥が鳴いてらあ! 店を出してほんの二年ちょっとと聞く。ようやく客が付き出した矢先に、お前たちも追いかけて店を出した。それもJRの駅寄りと来てる。百メートルと離れていない場所で、それも世話になった人んそばだ。どう見ても義理欠いてんじゃないのか? ただ挨拶すればいいってもんでもないだろう。味で勝負、弱肉強食、自由競争の世の中だと反論されればそれまでだけどよ。ま、確かにお前んちのラーメンはうまかった。いい出汁も出てたが、ラーメン作ってるお前の顔つきはそれよりもっとよかった。あっちは知らねえや。入ったことはねえからな。どっちにしろ地の利でいけば、当然お前たちがおいしいとこ取りやったってものじゃねえのか?」
 話を黙って聞いていた平塚は思い返すように言った。
「後ろめたい気持ちはもちろんあったよ。出来るなら他の場所でと方々あたってもみたんだが、あれはうちの親戚筋から回ってきた物件で引き合いの条件もめっぽうよかったんだ。場所はあの通り申し分なかったし、何よりあの通りの古い建屋で金も安くあがった。ちょっと狭いが改装もしやすい造りの店だった。どう考えても逃す手はなかった。親父が会社潰して助けはもらえない状態だったし、俺たちも手持ちに余裕があるわけじゃなかった。真佐子はああだしあれのおやっさんの協力にも応えなきゃならなかった。乏しい資金を有効活用するにはあの物件に飛びつくほかなかったんだ」
 岡部は、フッ、と鼻を鳴らす。
「都合のいい理屈を並べやがって・・・要するに義理よりてめえらの事情優先ってわけだろうが」
 椅子の背に持たせかけた黒ジャンからショートピースを取り出す。平塚にも一本勧める。彼は首を振って水を一口飲んだ。
「所帯を持てば誰だってそうなる。周りの人間たちの姿を気にしながら生活していくことになるんだ。ガキが生まれてくるとなりゃなおさらだ」
 タバコをくわえた岡部の目が光った。落下しそうになったタバコを手に持ち苦笑した。
「馬鹿に殊勝な言い草じゃないか」
 タバコに火が入った。
「以前のお前なら口が裂けてもそんなことは言わなかったぜ。真佐子もそうやって口説き落としたのかい? あいつは極道で性根が腐ってるから帰りを待ったって一生幸せにはなれん。それより気持ちを入れ替えた俺と所帯持ってラーメンの店でもやろうなんていい子ぶった能書き垂れてよ。俺が狭い鉄格子ん中で臭いメシ食っている間にだ」
 口を開きかけた平塚はそれを思い留まった。
 コーヒーが運ばれて来たのだ。
 岡部はブラックでコーヒーを飲み、平塚はそこにミルクを流し込んで丁寧にかき回した。少しの時間が流れた。
「覚えているか?」岡部は言った。「浜の奴らに回されそうになっていた真佐子のことを・・・」
「ああ、覚えている」
「あのままシャコタンのボロっちいクルマに乗せられちまえば、真佐子は俺たちにまぶい目を向けるようになりもしなかった」
「・・・」
「俺があいつらの前に割り込んだのは、彼女の嫌がりようが半端じゃなかったからだ。抵抗して必死に喚き散らしていたからな。その寸前、おめえは俺の腕を取って止めようとしたよな。下手なことするな、相手が悪い、見ないで通せ、ってなあ・・・あの日のことは忘れやしねえ。一生、覚えていることになりそうだぜ」
「・・・」
「連中にさんざん叩きのめされ、いたぶられ、あの晩俺の身体はあちこちで火が噴いていたよ。三日間俺は起き上がれなかった。度胸の据わった男だと思っていたお前への見立てが変わったのはあれからだ。実際のお前はからっきし意気地のねえ野郎だと知ったんだ。別に恩売るわけじゃねえが、あの時、真佐子が浜の奴らに連れて行かれていたら、お前たちがこうなってラーメン屋始めることもなかったと思うぜ」
「・・・」
「真佐子は実家に戻って結婚したとは聞いていたが・・・まったく人生ってやつは目出度いや。とんでもないサプライズを連れてきやがる」
 岡部はタバコの煙を吹き上げた。
「よりもよってこんな風につまんねえ出番を俺に与えやがってよ。そうして黙ってないで、何か言いたいことがあれば言ってみろや」
 こちらを気にしていたサラリーマン風の男たちに岡部が眼をくれると彼らはオーダー用紙を持ってコソコソ立ち上がって消えた。
「憲には悪いと思っている」平塚は声を潜めて切り出した。「お前が最初にム所ヅトメをした暴走轢き逃げ事件もやったのは俺だった。あの時二三の連中に口裏合わせを頼んだのも確かに俺だ。あれは本当に申し訳なかった」
「・・・」
「だけど、真佐子のことについては俺にも言わせてくれ。俺が一方的に惚れていたことは確かだが、真佐子も真佐子でお前のいない日々を寂しがっていたのだ。実家に戻りアルコール依存症みたいになってると聞いて、俺はいても立ってもいられなかった。本当だ。信じてくれ。だから俺は彼女を訪ねて行ったのだ。そのうち彼女の相談などに乗ってやるようになった。そうして一緒にいる時間が多くなり、気がつくと一組の男女として向き合っていた。憲には本当に申し訳なかったと思ってる。この通りだ」
 平塚は頭を下げテーブルに額をこすりつけた。
「それでいっぱしに詫びを入れたつもりか」岡部は舌打ちした。「顔を上げろよ。俺にぱしりやらせていた頃のお前が嘆くぜ」
 平塚が顔を上げた瞬間、岡部はいきなりコーヒーカップの液体を彼の顔目がけて放った。彼は目をつぶり、その液体を受けた。手で濡れた顔を拭った。彼の白い上っ張りの胸元を茶色い液体が弾けて流れた。
「大丈夫ですか?」
 ウエイトレスが紙タオルを持って現れる。
「大丈夫だ」
 紙タオルを握った平塚の前に岡部は立った。
「立ってここへ出ろ」」
 促されて平塚は通路に立った。
「てめえみたいな野郎によ」岡部は声を荒げた。「俺の生き方決められちまったかと思うとムカッ腹が立ってならないぜ。俺の最初で最後の餞別だ」
 岡部は平塚の鳩尾に思い切り膝蹴りを食らわした。平塚は身体を折り曲げてうめき、その場に蹲った。岡部はさらにテーブルを蹴った。コップ類も飛んで割れ散った。
 岡部はしゃがんで平塚の胸倉をつかんだ。両手でシャツを絞り上げながら言った。
「今度つまんない話聞いたら許さねえからな」
 両手を離すと平塚は床に尻餅をついた。そのまま岡部を見ることも出来ないでいる。
 辺りは騒然とした空気に包まれている。ウエイトレスさえ動けないでいる。
 岡部は黒ジャンを背に担いだ。隣のテーブルにあったグラスの水を飲み、悠然とした足取りで店を出て行った。





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