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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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記念写真
記念写真

                                                   

 旅客機はスカタン国のポンポコ空港を飛び立って巡航速度に入っていた。
 視界は良好。雲ひとつない空が広がっている。
 ここまで何のトラブルもなく、飛行は順調そのものである。すでに大海を見下ろし、自動運行にはいっており、操縦桿を握っている必要はない。
「こんな日はいちばんありがたい。最後までこの調子でいってほしいものだな」
 機長が緊張をときほぐすように言った。
「こんなに高い空を飛んで何百人もの人を地球の裏側まで運んでいく。人類の英知の結集をつくづく実感します。今回も安全な航行であってほしいものです」
「旅客機の操縦席ほどミスに備えるシステムの工夫は他に例をみないが、これでだって誤操作は起きてしまう。どんなに完全なシステムにも百パーセントはないというのが辛い現実ではある。あとのわずかは神のみぞ知る世界だよ。それには我々だって逆らえない」
 ちょっと首をかしげ、後ろの小窓からトイレが空いているのを確認して機長はトイレに立った。
 席に戻るなり彼は訊ねた。
「君のカミサン、そろそろなんだって?」
 副操縦士は笑って返してきた。
「ええ。二人で今か今かと出てくるのを待っている状態ですよ」
「はっはは。それでその赤ん坊から出てくるのがいやだと言われたらどうするんだ?」
「はあ?」
「いや、こっちの話だ。それは楽しみだな。男だったら、やっぱりパイロットにさせるつもりなのか?」
「それはどうやら無理のようです。高齢出産だということもあって、彼女、今のところ二人目を生むつもりはないようですから」
「女の子なのか?」
「まあ、そうです。どうせ、おんなじことだって生まれてくるのはどっちか教えてもらったみたいです」
 機長は笑った。
「まるで他人事みたいな言い方だな」
 そこへデッドヘッドが、調子はどうかね、とコックピット内の様子を見にやってきた。業務的なやりとりを行った後、彼は副操縦士の肩をたたき軽い笑い声とともに引き下がった。
 管制との通信もしばらくは必要ない。
 機長はスッチー(キャビンアテンダント)によって客室の様子を掌握してから、機内アナウンスのマイクを握った。天候の様子やどの辺を飛んでいるかの説明を明朗な声で行った。
 機内アナウンスがすんで、機長はほっとした顔でお茶を飲んだ。
「少し、寛ごう。緊張に凝り固まったまま職務を遂行しても、それが必ずしも最高の仕事になるとは限らない」
 そう言って二人はジョークを交えた会話を始めた。そこには下ネタもまじった。
「そういえば、客室乗務を行っているA子君、これが最後のフライトだったな」
「ええ。今後は実家に戻って結婚に備えるそうです」
 機長は、ラジャー(Roger)、と膝を叩いた。
「彼女にいいプレゼントがある。最高の記念になるプレゼントだ」
「最高の記念って、何ですか?」
「すぐに分かる」
 そう答えて、彼は当のA子をコックピット内に呼び寄せた。
 ドアが開いてA子が中に入ってくる。
「お呼びですか?」
「うむ。君にお祝いのプレゼントがあるんだよ」
 機長は席を立ち、小さなバッグから愛用のデジタルカメラを取り出した。 
「そこに座りたまえ。このカメラで記念写真を撮ってあげるよ。一生の宝物になるぞ」
「でも・・・・・・」
「いいからいいから。この機は今、自動操縦で飛行を行っている。何の問題もない。そこに座って、Vサインでも出したまえ」
「キチョウ・・・・・・」
 副操縦士が小さな声で口を挟みかけたが、彼女の説得に夢中の彼にその声は届かない。A子はとうとう機長の操縦席に座らされてしまった。最初、しり込みしたA子も操縦席に座らされてみると、それが心地よいらしく嬉しそうな表情になった。その時、デジカメの最初のシャッターが切られた。
 副操縦士は口を挟むのをあきらめた。自分一人反目してもどうなるものでもない。上司にたてつき、ここでギスギスした空気を生んだほうがかえってまずいことになりかねない。
 立て続けに数枚のシャッターが切られた。
 シャッター音を聞き続ける副操縦士の耳はみるみる赤らんできた。


 フィギュアスケート・キムヨナ選手の演目の中でも、お気に入りのひとつ(EX 「Just a Girl)をどうぞ。
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