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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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晩秋
 午後から運動会を見に出かけた。家から歩いて数分の場所に中学校がある。運動会は朝からそこで行われている。
  運動会など見ても仕方がない気持ちだったが、家人は掃除を始めて鬱陶しい顔をするし、所在を失って運動会でも見てこようとなったのである。
 途中の公園の色づいた桜の葉が風に吹かれて散り始めている。枯葉を踏みしめて子供らが元気よく遊んでいる。
  僕は彼らに眩しい目を送った。僕は彼らを見るたび、同じ年頃だった自分と記憶を重ねてしまう。子供を育てたことのない僕はこういう時でないと思い出に浸る機会もない。
  当時、僕は山の分校にいた。ボール遊びではなく、チャンバラ遊びかメンコ遊びだった。
 大きなむく犬を連れた男が公園の側道から出てきた。野球帽をかぶり、小走りになっている。後ろから少女が笑いながら走り出てくる。
「サンター、サンター、待ってェー」
 大きな声だ。サンタというのは犬の名であろう。少女の甲高い声もあって、僕は二人に目を奪われた。
 野球帽の男は身体ごと犬に引っ張られ、顔を赤らめながらも笑顔を浮かべている。
 そばを通り抜ける時、彼は僕に笑みを向け、軽く頭を下げた。続いて少女が走り抜ける。少女は父親らしい男に並びかける。
「パパァ、サンタをもうちょっとゆっくり走らせてよ」
「それを言うなら、サンタに言いなさい、サンタに。はっははは」
 男はまた犬をせかせて走り出した。
「もう、パパったら、パパがけしかけてるんじゃないの」
「あっははははは・・・・・・」
 彼らは影をもつれさせて遠ざかった。
 僕はほどなく足を止め、耳を澄ませた。校門の奥から大きな歓声が聞こえてくる。
 スロープになった校門の道を上がって行く。道が平坦になって運動会の風景が広がった。フィールド競技の入場行進が始まっている。大人も子供も混じっての大行進だ。
 今朝方、運動会の礼砲花火で叩き起こされた。深夜映画を観て疲れてぐっすり寝ているところに耳元でパパーンときた。一瞬、何が起こったのかと思った。花火は二三回続けて打ちあがり、およその事情は飲み込めたが、向かいのおばさんに聞くと果たして地区の運動会があるというのだった。
 その時は見に来るつもりはなかったのである。
 そこでは老壮年の元気と子供の活力がひとつに溶け合い歓喜で充満していた。
 僕は彼らの歓喜や競技の様子を遠目にしながら、トラックを囲む見物席の外側をゆっくり一周した。
 周囲はところどころ水溜りと湿地が残っている。この秋は雨が多く、ついこの間も大雨だった。
 その雨も嘘だったようにフィールドは参加者の熱気で燃え上がっている。
  子供を持ったことのない僕にその場所は遠く感じられた。踏み込んでいけない何かがあると感じた。
 ちょうど僕が退場コーナーに差し掛かった時である。フィールド競技を終えた者達の退場行進が始まっていた。秩序よく退場行進を続けていた列は、コーナーにたどり着くとバラバラバラとほどけだした。子供たちが走りだしたからである。僕は次々走って来る子らに包まれる格好になり、身動きがつかなくなった。子供たちは歓声やら笑い声やらあげながら、僕の傍らを走り過ぎる。僕の身体や腕にぶつかって、ジロッと僕を見上げる子もいる。
 子供たちが走り過ぎ、大人たちになって僕はようやく彼らの列から抜け出た。彼らはどんどんそこから離れて、退場コーナーは僕だけになった。
スピーカーが唸り、フィールドでは新しい競技が始まろうとしていた。
 僕は運動場を離れ、校舎の通路に出た。
 この時、女子のグループが僕を追い越して行った。僕の左右を二人、四人、六人という風に、それも全速力でだった。
 中学生か高校生か・・・・・・。
 僕は再び身を硬くしながら歩いて行った。校門の前に辿り着いた女子のグループは、こちら向きに整列し、再び二人、四人、六人という並びでこっちに向かって走りだした。リレー競技に備えてでもいるのであろうか。
 僕は道の端に寄る機会を逸し、再び彼女らを左右に振り分けさせて走らせる格好になってしまった。傍らを走り抜ける時、彼女らは汗混じりの若い匂いを放っていた。
 また後ろから走ってくるのか、と思って端に寄って歩きだした僕だったが、彼女らが走って来る前に校門のスロープにたどり着いてしまった。
 僕は振り返って彼女らが走ってくるのを見ようと思ったけれど、なぜか、振り向く気力を得られないまま、外へと歩き出してしまっていた。
 

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