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ひでの創作集
掌編を中心に書いています。
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ザリガニ獲り
 水の事故でなくなった子供のニュースが僕の心に重い痛みをもたらしてきた。子供の溺れ死んだ池の映像が自分の脳裏にこびりついて離れなくなったからだ。
 それから幾日かして、僕は今の自分が昔遊んだ池でおぼれる夢にうなされた。ありえないと思いながら僕はそこでもがき苦しんだ。
 池のそばはきれいな散歩道になっていて、人がたくさん通っていた。その向こうではモーターショーで見るようなクルマも走りかっている。彼らに大きな声で助けを呼んでも彼らに届かなかった。こっちを見ても彼らは自分に気付く気配を見せなかった
 自分の立てる水音だけがバシャバシャする。しかし人やクルマの行き交う方角からは音という音がまるで聞こえてこない。
 そっちとこっちではどうやら次元が違うと僕は気付いてきた。彼らはこっちの世界が見えても聞こえてもいないようであった。
 助けを呼ぶのをあきらめ、僕は仰向けの状態でさんざんもがいた。やがてあきらめ、だらりと腕の力を抜いた。するとその手の先がやわらかな土に触れた。そこは水底だった。なんのことはない。そこは伸ばした腕の先が底につくほどの浅い池だったのだ。
 立ち上がってみたら、膝の高さをちょっと出た程度の深さだった。
 しかし、喜んだのも束の間だった。今度は立ったその足が水底のぬかるみに引っ張り込まれていくではないか。
 再びそれに逆らった末、さっきと同じ仰向けの状態に身体をそらすと浮力を得た板切れのように両足はスポンと抜けた。
 そしてまた最初のおぼれた状態の再現である。

 親や大人たちは子供らが遊びにいくのを見て、遠くにいってはいけないという。あぶない場所に近づいてはいけないという。
 しかしいろんな遊びを通じて生の経験を積み上げていく子供らにとって、それらの言葉は空念仏のようなものである。親から直接くらうビンタのような恐怖心も説得力もない。
 言葉は百パーセントの意味を伝えるまでには幾度も意味と内容の突き合わせを繰り返さなければならない。
 遠くにいってはいけない、も、危ない場所に近づいてはいけない、も、言葉として伝わったとしても、経験をそれなりの量や質として蓄積させなければ空疎な音の響きだけでしかないのだ。

 水におぼれる夢にうなされた朝、僕はコーヒーをいつもより薄くして飲みながら、そんな言葉を母からひんぱんに聞かされていた頃のことを懐かしく思い出した。
 小学校二三年時の夏のことで、その頃、僕の家族は大阪に住んでいた。今でこそ、ビルで埋め尽くされている場所であるが、その当時は映画館や市場の前には大きな広場があり、家々のかたまりと家々のかたまりの間には畑や池などが長閑な景色をひろげていた。
 よそから転校してきて間もない時期で僕に友達はいなかった。いつも一人で学校から帰ってきていたが、その途中に形のよくわからぬ湿地と池があった。池のへりには草がぼうぼうと茂っていて畑に続く道があった。幅の狭い浅瀬の場所にはなぜか板が渡してあってその上を人が歩いていた。日差しにしゃくれて音のギシギシ鳴る不安定な渡し板だった。
 時々、渡した板の上に僕の知ってる子らが集まってきてザリガニ釣りをやっていた。ザリガニは貪欲でカエルでも魚でも何を餌につけても食いついてくるという。共食いの習性もあるのか、釣ったザリガニの切り身をつけてもそれにくいついてくる。ザリガニは面白いように釣れるらしく、彼らははしゃいでいた。
 近づいていくと嫌われるから、僕はその様子を遠目にながめていたのである。
 母が内職で使っている糸をもらって僕はその池へ時々出かけていった。糸を切ってもらう時、母は何に使うのや、と聞いてきた。池でザリガニを釣るのだと僕は答えた。母は怪訝そうにしながら、危ない場所に近づいたらあかんで、と言って
糸を切ってくれた。
 池に出向くと僕の近所の子が先にきてザリガニを釣っていた。クラスは違うが同じ学年の子だった。彼のおかげで僕はカエルをつかまえずにすんだ。彼の方から話しかけてきてザリガニの切り身をくれたからである。
 それから彼と一緒にザリガニ獲りに出かけていくようになった。だが、それは短い期間だった。彼は家族で広島へ越していったからである。
 近所の長屋はしょっちゅう引越ししていく連中や引越ししてくる連中で騒々しかった。戦後やっと十年が経った頃で、世の中の人たちは生活のために引越しを繰り返していたのだ。
 彼がいなくなって僕は弟をつれて池へ出かけていくようになった。その夏は弟相手のチャンバラとザリガニ獲りで明け暮れた。
 しかし、秋を迎えると僕らも急に山奥への引越しが決まった。僕らのザリガニ獲りもそれで終わった。
 あんな不安定な渡し板の上からよくもザリガニ獲りに熱中したものだと今にして身震いさえ覚える。



今日の名曲 モダン・プレイボーイズで(暗い港のブルース)です。若い頃、僕はこのレコードを買ってきて聴きまくりました。




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